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スポーツに輝く美

魂を揺さぶる瞬間

  1. 2007年7月10日、大リーグ、第78回オールスター戦。5回1死の場面でア・リーグのイチローが長打を放った。一塁を蹴って、二塁も蹴って、さらに三塁をも蹴って、本塁を駆け抜けたイチロー。大リーグ球宴史上初のランニングホームランは、イチローがあまりに悠々と生還したため、「最もエキサイティングでないランニングホームラン」とも評された。もちろん、賞賛の辞である。だが、私は思う。どの大リーガーがこんな心ときめくホームランを打てようか?あの日イチローのランニングホームランがくれた感動は、間違いなく、どんな大打者の、どんな大ホームランにも優るものだった。
  2. 何度見たことだろう、氷上で転倒する浅田真央。どんなに不調な時でも、この美しいスケーターはトリプルアクセルへの挑戦を止めることはなかった。うしろ向きに浅田が滑って来る。安全策で難度を下げることなど念頭にないのか、彼女は三回転半を跳ぶために前向きに踏み切る。その瞬間、それは私の魂が激しく震える瞬間だった。このようなスケーターは、世界広しと言えど、浅田真央ただ一人だ。
  3. ラグビーワールドカップ2015年イングランド大会。1次リーグB組、日本対南アフリカ。試合終了間際、日本は強豪南アフリカに32-29とリードされていたが、試合は最後の1秒まで分からない。その時、南アチームに反則。日本はペナルティキックを得た。ここで五郎丸が蹴れば、3点を獲得し、引き分けは固かった。それでも歴史的な殊勲の引き分けとなったはずである。しかし、彼らは引き分けではなく、勝利への道を望んだ。すでに残り時間はゼロで、次にボールが止まれば試合終了となり、日本の負けだった。スクラムからボールをつなぎ、繰り返し、繰り返し、敵陣へ突進する日本チーム。ついに右から左へとパスされたボールを受けたヘスケスが、タッチラインぎりぎりから敵軍のインゴールに倒れ込んだ。
  4. 2016年8月19日、リオデジャネイロ。男子400メートルリレー決勝のピストルが鳴った。日本チームは第一走者・山県亮太、第二走者・飯塚翔太、第三走者・桐生祥秀、といい走りが続く。だがトラックはカーブしているので、テレビカメラのレンズを通して見る映像では、日本が何番目の位置にいるか分からない。そして桐生からアンカーのケンブリッジ飛鳥へバトンが渡される。その瞬間、何と、隣レーンを走るジャマイカのウサイン・ボルトと並んでいるではないか!ボルトとケンブリッジはほとんど同時にバトンを受け、ゴールに向かって最後の100メートルをひた走った。

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